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最高裁判所第二小法廷 平成6年(オ)1532号 判決 1996年11月22日

上告人

清本竹一

右訴訟代理人弁護士

奥西正雄

吉田実

被上告人

亡浅野幸保相続財産

右代表者相続財産管理人

石橋一晁

右補助参加人

豊田志津子

右訴訟代理人弁護士

正木孝明

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とし、参加に関する総費用は被上告補助参加人の負担とする。

理由

上告代理人奥西正雄、同吉田実の上告理由について

一  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  上告人は、昭和五九年三月末ころ、亡浅野幸保に対し一億八〇〇〇万円を貸し渡し、その担保として、浅野所有の第一審判決添付別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について帰属清算型の譲渡担保権の設定を受け、譲渡担保を原因とする浅野から上告人への所有権移転登記が経由された。

2  浅野は、右貸金債務の弁済期にその支払を怠り、同債務につき履行遅延に陥った。

3  その後、浅野は死亡し、その相続財産法人である被上告人の相続財産管理人は、上告人が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に、上告人に対し、本件土地の受戻権を放棄する旨を通知して、清算金の支払を請求した。

4  上告人は、浅野の死後、本件土地を使用して駐車場を経営し、右受戻権放棄の通知までの間に一三二〇万円の収益を得た。被上告人の相続財産管理人は、上告人の得た右収益は不当利得に当たるとして、第一審の口頭弁論期日において、これを自働債権とし、右貸金債務と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

二  本件訴訟は、被上告人が、本件土地の受戻権を放棄したことにより上告人に対し清算金支払請求権を取得したとして、本件土地の評価額から右相殺後の貸金残額を控除した金額に相当する清算金の内金の支払を請求するものである。

原審は、右事実関係を前提とし、譲渡担保権設定者は、被担保債務の履行を遅滞した後は受戻権行使の利益を放棄することができるのであるから、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間であっても、譲渡担保権者に対し受戻権行使の利益を放棄することにより清算金の支払を請求することができると判断して、本件土地の評価額から右相殺後の資金残額を控除した範囲で被上告人の清算金支払請求を認容すべきものとした。

三  しかしながら、譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。

四  そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に判示したところによれば、被上告人の本件請求は理由がないから、右請求を認容した第一審判決を取り消し、これを棄却すべきものである。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、九四条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官福田博 裁判官大西勝也 裁判官根岸重治 裁判官河合伸一)

上告代理人奥西正雄、同吉田実の上告理由

第一、原判決には、譲渡担保の受戻権について判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の違背があるので原判決並びに第一審判決は破棄さるべきである。

1、原審判決は、字句を訂正したり、数字を変更したり若干の事実認定を付加修正された外は第一審判決を是認された。

第一審判決二四頁八行目以下では「譲渡担保権設定者は債務の履行遅滞に陥った後は、受戻権行使の利益を自ら放棄することが出来るのであるから、譲渡担保権者が清算金の提供も清算金がない旨の通知もしない場合に、譲渡担保権者に対し自ら受戻権行使の利益を放棄して、清算金支払の請求をすることができると解すべきである」とされ、続いて「譲渡担保権設定者が受戻権行使の利益を自ら放棄して、譲渡担保者に対して清算金支払いの請求をしたときに、受戻権ひいて目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の放棄が発生すると解すべきであるから、譲渡担保権設定者が清算請求をした場合は右時点を規準時として、清算金の有無及びその額を確定すべきである」とされ、原審判決もこれを是認し、右の法理によって原審判決の主文を導かれた。

2、右のように解される譲渡担保の受戻についての解釈は従来の最高裁判決を逸脱し、法解釈並びに法適用共に違法である。

(ⅰ) 譲渡担保における受戻権とは、債務者が債務の履行を遅滞した場合であっても、債権者が担保権の実行を完了する迄の間、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復することとされている(最判昭和六二年二月一二日民集四一巻一号六七頁)。また、受戻権は債務の弁済と目的不動産の返済請求債権の合体した形成権ではなく、債務の弁済により債務者の回復した所有権に基づく物件的請求権その他の権利だと解されている(最判昭和五七年一月二二日民集三六巻一号九二頁)。右の前提に立つと第一審判決にいう受戻権の放棄という概念は誠に矛盾という外はない。

(ⅱ) 受戻権はどの解釈を取っても債務を完済することが前提である。債務の完済することなく受戻権は発生しない(前掲昭和六二年二月一二日判決の原審は債務を履行していないから受戻権は発生しないと認定された)。受戻権には債務の完済という要件を含むものである以上、単に債務を放棄することはありえないことであるから、受戻権の放棄という概念はありようがないのである。

(ⅲ) 従来の最高裁判例がしばしば、受戻権を放棄して、清算金の請求が出来る道を開いたのは右とは場合が異なる。つまり、譲渡担保権者(仮登記担保権を含む)が譲渡担保権の実行に着手した場合にのみ右の判示をしているのである。未だ実行に着手していない場合は右の判示をしていない。詳しく言えば、債権の弁済を直接求めることなく譲渡担保物件の所有権を取得して、債権の満足を得べく債権者が清算金を支払って譲渡担保物件の所有権を取得すると通知した場合のことである。この場合でも、債権者が清算金を支払う迄は債務者は債務を弁済して譲渡担保物件の所有権回復を図ることが出来るという受戻権を判例は案出してきたのである。債権者は所有権を取得することによって債務の弁済を求めているのであるから、右の受戻権を行使することなく、清算金を請求することは債権者の要求にも合致して受戻権を放棄するという実質的意味が生じてくる。簡単に言えば、債権者より譲渡担保権実行の通知があった場合、債務者は清算金を請求できる関係にあるが、清算金の支払いがあるまでは受戻権をも行使できるという二つの道があるところ、一方の受戻権を主張する道を放棄して債権者が希望するとおり清算金を請求する道を選んでもよいことを判例は認めてきたのである。

(ⅳ) 原判決の引用される第一審判決は右のような場合に受戻権を放棄できると述べているのではなく、更に、これより広く債務の弁済期が経過して、債権者が未だ譲渡担保権の行使に着手しない場合であっても、受戻権を放棄できると断定されているのである。原判決のように解すると、譲渡担保設定者は債権者が担保権を実行しないで債務の履行を求めている時でも債務の履行をすることなく、債務者(設定者)は清算金を請求できると解することになる。受戻権の放棄とはこのように解する以外に考えられないことになる。右のように解すると、債務の弁済期の経過と共に譲渡担保設定者は債務履行という義務を負う法律関係から離れて、設定不動産を債権者に譲渡する自由を有し、従来の債務の原因である金員の受領は売買代金の前渡しということに変化する。即ち、譲渡担保は担保という性質を脱して売買または代物弁済一双方の予約という法律関係になる。これでは、譲渡担保という担保法を逸脱する解釈ということになって違法の評価は免れない。

(ⅴ) 本件ではどうであろうか。事実関係に戻ることとする。上告人は昭和五九年四月二八日(本来の債務の弁済期)に譲渡担保契約を売買契約に変更した。仮にしからずとするも、債権一億八〇〇〇万円と担保物件を清算したと主張した。原審の引用される第一審判決はこれを認めないで、売買契約は新たな譲渡担保契約と認定されたが、上告人(債権者)が譲渡担保権を実行したとは一切認定されていない。つまり、債務者は債務を履行しないところ、物件の価値が昂騰した平成元年七月に債権者の担保権実行の通知がないにかかわらず受戻権を放棄して、つまり、債務を履行することなく清算金を請求できると認定されたのである。

上告人が前記のように譲渡担保権の範囲を逸脱し、最高裁の判例をも逸脱して敢えて新たな解釈を施されたもので、その結果は前記のように誠に不条理、不合理で譲渡担保法を逸脱した違法な判決というべきである。

(ⅵ) 第一審判決のような結論に達するためには、乙三号証売買契約を譲渡担保と解した上(原判決はそう解された)、弁済期後上告人は譲渡担保物件による清算を求めたという認定が必要であるというべきである。しかし、その事実は認めておられない。逆に、その事実はなかったと認定されている。或いは、上告人は弁済期後、不断に担保物件による清算を求めたと擬制することも解釈としては考えられる。その場合、弁済期のあたりでは第一審の鑑定によっても本訴物件の価値は一億三四二五万円で債権額を下回ることを考慮し、担保物件の価格は債権額を下回るので清算金はない旨暗黙に通知したと擬制し帰属清算は結了したことになると解すべきである。原判決がこのような点も無視して不公正な裁判をされたことは次に述べる。

第二、一・二審の裁判手続並びに判断には裁判の公正を疑わしめる事実が多い。そこで、上告人はまず列挙し、次にその上告理由に及ぶこととする。

一、上告人が不公正であると考える項目は次のとおりである。

1、乙一八(確約証)は変造であるとする第一審の認定手続の不公正。

乙一八は乙一の譲渡担保契約について帰属清算を合意した文書でその重要なことは明らかである。第一審のように、亡浅野が署名した文書に浅野以外の者が本文を記載した(つまり、変造した)と認定されたが、このような事実は異常なことで通常あり得ないことであるから、第一審が公正な裁判をされるためにはその疑を当事者(上告人)に示して主張と立証を促されるべきであろう。端的に言えば、判決において当事者(上告人)を犯罪者呼ばわりする前に弁解の機会を供すべきである。上告人は証人大鋸久夫(控訴審で申請した)を捜し出し、一審で申請できたであろう。そうすると、乙一八は作成日付には大鋸によって、清書され乙二六は(第一審は本証も変造と認定されている)別人によって清書されていることが判明したのである(上告人は原審でそう主張している平成五年七月一四日付準備書面第一項四)。第一審が疑を表明される公正さがあれば証人を採用し、判断が変わる可能性が十分であった。控訴審は一審の変造認定に引きづられ、変造を固定観念にされたと思われる。

2、控訴審で、乙一八の真正を証明しうる証人大鋸久夫の申請を却下された不公正。

乙一八の真正を証明すべく上告人は控訴審において大鋸久夫を申請した。証拠の申出書及び右平成五年七月一四日付準備書面には大鋸は乙一八作成日付当時、上告人の関係者に帳簿記入方の指導を嘱託したものでたまたま乙一八の本文の清書を依頼して同人がこれを実行した旨を立証すると述べている、しかし、控訴審はこの証人を採用されなかった。もちろん、証人の採否は裁判所の自由である。しかしこのような重要な証人を採用しないのは既に乙一八は変造であるという固定観念を持った上で証人を無用とする訴訟指揮という外はない。控訴審では項を改めて述べるように乙二八、乙二九によって乙一八と同時に作成された乙三(売買契約書)の成立以後利息の支払いはない旨の立証ができていると上告人は信じているところ、したがって、乙一八の変造の認定は困難となっているところ、更に、その真正を証明できる。証人を申請しているのにこれを却下することは、意図的に行った不公正と上告人は身に沁み渡る思いである。このような場合証人の差異費の自由の濫用というべきである。

3、乙二八、乙二九の書証により明らかに証明される事実に反し、乙三(売買契約書)乙一八(覚書)成立後もなお、債務者亡浅野が死亡に至る迄利息を支払っていたと認定される不公正。

イ、控訴審の引用される第一審判決は、債務者亡浅野が乙三成立後も利息を支払っていることを重要なよりどころとして乙三の売買という文言に反し、真実は譲渡担保契約であるとされ、且つ、乙一八が変造であることの重要な根拠とされた。第一審が利息を支払っていると認定される根拠は豊田証言(第一審判決一八頁より二〇頁三行目)と丙一、二、四、六によるものであるが、豊田は亡浅野幸保相続財産管理人(被上告人)選任手続をし、その相続財産の債権者は上告人と豊田の二人のみであるから、実は、本件の実質的な影の当事者である。その豊田が伝聞にも属さない推測の証言をしたのを証拠だといって採用し、且つ、丙四は別件(乙二一、乙二三)でも豊田が利息支払いの証拠(乙二四)に提出したのに判決(乙二三)においてこれを排斥されているという程度の書証である。もちろん、証拠をどう見るかは事実審の専権であるから、上告人もこれにとやかく異議を述べることは慎まねばならない。

ロ、右のような認定に愕然とした上告人は控訴審において乙二八(メモ)、乙二九(私的帳簿)を提出した。乙二八、乙二九は上告人の金融取引について昭和五九年度一年間の全てを細大漏さず記入したもので、金融業としての貸付日、貸付額、天引額、利率、返済日、返済額、利息収入額、返済不能の取引内容の全てを記入している。もちろん、誤りはあるが、乙二八、乙二九を照らし合わすとその誤りは容易に判明するし、元来何人にも閲覧に供する予定はなく、自己の管理にのみ使用するのであるから誠に真実そのものと言うべきである(上告人の控訴審における供述)。右の乙二八、乙二九及び上告人の説明の供述によれば本件であらわれる他の貸金の利息収受の記載があるに関わらず、乙三、乙一八の成立後上告人は本件一億八〇〇〇万の貸金につき利息を一切収受していないことが明らかである。さすがに控訴審も乙二八、乙二九を以て上告人のが控訴審の訴訟継続中に後から作成したものとは認定されなかった。しかし、控訴審は上告人の主張立証を考慮しても第一審で利息を支払っているという認定は変更する必要はないとされた。この認定は乙二八、乙二九の書証によって証明される利息不支払いの事実に反する認定をされるのであるから当事者を納得させる合理的な理由を示すことが必要と言うべきであろう。原審はこれを尽くさないで、専ら事実の認定は事実審の専権に属すという砦に籠もり納得できる理由を何ら示さないという不公正を侵された。

4、乙一八を以て、変造であると認定することの不公正。

乙一八を以て、変造であると認定する根拠の重要な点は乙一八成立の日付の後も亡浅野が利息を支払っていた点にあると第一審判決は述べておられる。この点は前号において乙二八、乙二九から見て利息は支払われてないと述べたことがそのまま当てはまる。その上、乙一八には現実の引渡と、登記原因を譲渡担保より売買に変更する書類、印鑑証明を亡浅野より上告人に交付すべきことが述べられている。上告人が第一審で現実の引渡を証言していることはさておくとして、乙一九、乙二〇、乙二一は正に右乙一八にいう委任状と印鑑証明書である。乙二〇はその証明の日付が乙一八の成立の日と符節のあうところであるし、乙二一は乙二〇の有効期間の切れるところである。このような客観的な証拠の裏付けのある乙一八は変造だとはこれのみにても不公正である。

5、事件を客観的に全体として見た場合の原判決の判断の不公正。

事件の流れを全体として普通はどう考うべきかという問題である。上告人は一億八〇〇〇万円を貸与した(天引き額に争いがあるが、要点でないので無視する)。弁済期の物件の価値は金一億三四二五円也で、債権額を下回る。この場合、上告人が物件を取得するほかに差額を追求するのが普通であろう。本件の場合、上告人は差額を放棄して、物件を取得するというのは上告人の不利な事実であるから、そう認定しても一般に何人も納得するであろう。乙一八の成立が認められるのである。ところが、バブルが進行して物件の価値最高となった時期(もちろん偶然そうなったのであるが)をつかまえて物件の清算をやらせるために乙三、乙一八の成立後利息を支払っていると認定して、乙三の売買を否定するという認定は常識を逸脱していると言うべきである。しかも、他方、乙三は売買であるため利息損害金を記入していないと、この点はその通りつかまえて利息損害金の定めがないと認定し、その後の上告人の利息は利率を五%として計算する。第一審も控訴審も上告人に偏見を以て判決をされているとしか考えようがない。上告人は公の機関の不公正に憤りをおぼえる次第である。逆に、上告人を落としめる事実認定の操作の結果、第一で述べたように法律違反を侵すことになったと思われる。

6、右のように常軌を逸した判断に到達する原因は、上告人が金融業者であるという点にあると思われる。それはそれである種の合理性はあるものの、本件のように客観的な証拠によって上告人の正当性を立証している場合にまで持ち込むべきではない。また、自動車損害賠償法で、当事者の立場の逆転という政策を法律で定めている場合は別として裁判所は政策を判決に持ち込まないで事実と法のみによって判断するという近代化を遂げる時期にきいてると上告人は考える。

二、上告理由

1、判決に理由を付さない違法(民訴三九五条六号違反)。

乙二八、乙二九によって乙三、乙一八の日付以後上告人は本件貸金の利息を受け取っていないことを立証できたと上告人は信ずる。その立証の要点は原審の平成五年一月一四日準備書面に詳述した(乙二八、二九の見方については平成四年一〇月一四日の準備書面)。全取引の数字をあげて本件一億八〇〇〇万円の債権については利息収受(亡浅野から言えば利息支払)という事実がないことを証明したのであるから文書による証明と言うべきであろう。

注 原審は乙二八、乙二九号証の成立に疑問を持たれたのであろうか。しかし、そうとすれば、上告人は乙二八、乙二九号証を留置処分(民訴三二〇条)による精査を求め不十分の場合は鑑定を求めるとした(平成五年七月二三日準備書面一項2号)。それでも原審は何の処置もされなかったから成立は認められたものと思われる。

乙二八、乙二九はどこまで証明できているかはもちろん裁判所の自由心証によるべきであろう。しかし少なくとも数字で受取利息は零であることを証明しているのであるからそれでも上告人は利息をうけとっているという判断をするには上告人を納得させる合理的な説明が必要である。この説明のない原判決は判決に理由を付さない違法があると言うべきである。

2、釈明権不行使、審理不尽の違法(民訴三九五条六号違反)

原審は第一審の判決を認容されたが、その第一審では作成者の署名捺印は真正であるので通常はその文書は真正に成立したと考うべき、乙一八号証につき、上告人に主張、立証を促すことなく変造と決めつけられた。上告人は相手方ではなく、裁判所より不意打ちを受けたものであるが、このような訴訟指揮は釈明権の不行使、したがって、審理不尽というべきである。

更に、控訴審で上告人は乙二八、乙二九によって、利息の支払いがないことを立証した上、乙一八がその日付の日に成立したことを証する証人大鋸久夫を申請した。この証人は証人として不適切であるという何らの理由もないのに原審はこれを却下された。証人の採否はもちろん裁判所の自由である。しかし、本件の場合に右証人を採用しないのは、上告人の立証は意味がないと判断された以外には考えられない。右のような具体的場合には一般に取り調べてみなければ真否が不明と言うべきところを取り調べる必要がないとされる判断は正に審理不尽という外はない。

以上の理由不備、二点の審理不尽は判決の結果に影響を及ぼすこと明らかである。

3、原判決は乙三を以て売買契約の文言に関わらず実質的には譲渡担保契約を高めたものにすぎないと認定された。その上で担保物件を占有する権限はないとして、上告人が駐車場として利用したのは不当利得だとされた。ところが、上告人の利息の計算となると、乙三の売買契約の文言をそのままつかまえて利息損害金の定めがないとされた。つまり売買契約とされた実質は譲渡担保を約したにすぎないとすれば、乙一の趣旨の約定が乙三には含まれていると見るべきであろう。上告人を落としめるために都合のよい時は実質の譲渡担保を取り、また別に都合のよい時は形式の売買を持ち出した判決である(原審の恣意を判決に表明した例というべきである)。正に理由に齟齬があり、その結果は判決に重要な影響を及ぼすというべきである(民訴三九五条六号違反)。

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